熟成の科学!ワインは寝かせるとおいしくなる?

ワインテイスティング

「寝かせる」とも表現されるワインの熟成。

では、熟成とはどういうことを指しているのでしょうか。

今回は、ワインの熟成について解説してまいります。

まず、ワインの熟成とは科学的なものであることを確認しておきます。

ですから、どのような種類のワインであっても、この現象は起きているのです。

そしてワインには、1本1本すべてに一番おいしくなる瞬間があります。

その瞬間を「ピーク」または「飲み頃」と表現しますが、それぞれのワインでやってくるまでの期間が異なっています。

さらに知っておいていただきたいのは、熟成したワインは特別なものではないということです。

自宅でワインを熟成させることもできるのです。

それでは、ワインの熟成がより身近になるようお伝えいたしますので、ぜひ最後までこの記事をお読みください。

あなたのワインへの興味が、さらに広がるきっかけとなることを願っています。

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目次

1.熟成の科学

ワイン樽

ワインの熟成には二つのタイプがあります。

・樽熟成

・瓶熟成

《樽熟成》

瓶詰め前に木樽を用いて行なわれます。

生産工程の一つであり、消費者が関与できないものです。

ワインボトル

《瓶熟成》

瓶詰め後の保管中に進んでいくものです。

生産者が数年の瓶熟成をした後に販売することもありますが、多くの場合は販売後に業者や消費者によって行なわれます。

多くの場合、「ワインの熟成」とは「瓶熟成」のことを指しますので、今回はこの「瓶熟成」についてのみお話をさせていただきます。

1.1.熟成の原理は酸化

「ワインは生き物」という言葉、お聞きになったことはあるでしょうか?

少しずつではありますが、ワインは常に変化をし続けています。

保存環境の影響を受けながら、成長しているとも言えるのです。

成長する飲み物という意味で、「生き物」と形容されたのでしょう。

では、成長を促す環境の影響とは何なのか?

具体的に挙げると、最も大きなものは「酸化」です。

つまり熟成とは、酸素に接触することによって起こる変化のことなのです。

ただし、知っておいていただきたいのは、健全な熟成といえるのは緩やかな酸化に限るということ。

開放された容器などに入れられて多くの酸素と接触している状態では、ワインは急激に酸化していき短期間で劣化します。

これは「熟成」とは呼びません。

あくまでも、瓶などの密閉された容器内で、わずかな酸素により緩やかな酸化をしたものが「熟成」なのです。

では、具体的にはどのような変化が起こっているのでしょうか?

例えば赤ワインの渋みであるタンニンは、酸素と接触することによりタンニン同士が結合します。

結合することにより、味覚への刺激が和らげられると同時に、一部はオリ(澱)となって瓶の底へ沈んでいきます。

その結果、ワインの渋みは抑えられまろやかな味わいへと変化するのです。

他にも、ワインに含まれるアルコールが酸素に触れることで、新たな香気成分を生み出すことがわかっています。

これらは一般に「熟成香」といわれ、アルコールが酸化することで生み出された有機酸類が、さらにアルコールと結合することによって発生します。

つまり酸化により、ワインの香りも好ましいものに変わっていくのです。

「熟成」とは、緩やかな酸化によるワインの変化、味や香りがまろやかになったり複雑になったりする変化のことでもあります。

また酸素の供給は、ボトルの栓となっているコルクなどのわずかなすき間から出入りする空気によってなされます。

1.2.熟成にはピークがある

赤ワイン

熟成が進行していくと、徐々にワインの風味は芳醇となり、味覚に好ましい要素を豊かにしていきます。

あたかも、山を登っていくかのようです。

そして、実際の山がそうであるように、ワインにも山頂があります。

これが、熟成によるワインの味の「ピーク」、つまり「飲み頃」と称される、おいしく飲むことができる最高の状態なのです。

そして、山を下っていくような状況を「ピークを過ぎる」と表現します。

ピークを過ぎたからといって途端においしくなるわけではありませんが、次第に風味が痩せていき、いずれおいしさを感じなくなる時が来るでしょう。

タンニンや酸などをバランスよく豊富に持っているワインほど、この山は高く、登るのに時間がかかり、逆に少ないものでは、山は低く、ピークに達する時間も短くなります。

つまり、ワインのタイプにより飲み頃が違うということです。

2.すべてのワインが熟成する

ワインの熟成というと、一般的には赤ワインをイメージするのではないでしょうか。

しかし、実際には白、ロゼのワインも熟成をします。

熟成が酸化である以上、酸素さえあればどのようなワインでも熟成するのです。

2.1.熟成向きなのは高級赤ワイン

ワイングラス

すべてのワインが熟成するとはいっても、やはり熟成に向くのは高級赤ワインと称されるものです。

丁寧に栽培し、成分の凝縮された高品質のブドウを使用して、さらに手間隙を惜しまず醸造されたワインには、水分以外の有機酸類・アルコール・タンニン・糖分などが多く含まれます。

このような有機酸類を始めとする成分は熟成により変化し、私たちの嗅覚・味覚に良い印象を与えてくれますので、これらの成分を多く含むワインは熟成に適しているのです。

フランス・ボルドーの格付けワインやブルゴーニュの特級畑のワイン、カリフォルニアの上級ワインなどが熟成向きのワインとして挙げられるでしょう。

赤ワインの熟成では、生産直後のやや青みを帯びていた色から青さが抜け、次第に赤みが落ちるとともに黄色みを増していきます。

その結果、長期熟成したものではレンガ色と表現される色になるのです。

味わいに関しては、酸味を感じさせる生の果実のニュアンスが、次第にジャムのような煮詰めた感じに変わり、最終的にドライフルーツのような風味になります。

また、きのこや濡れた落ち葉などの、熟成による独特な香り成分も増えていきます。

2.2.白・ロゼワインも熟成する

あまり熟成させる印象がないかもしれませんが、白ワイン・ロゼワインも熟成による味の変化を楽しめます。

特に高級な白ワインは、熟成した味わいも好まれています。

赤ワインに比べると長期の熟成には向いていないのですが、しっかりした造りのものであれば、長く寝かせることで複雑な味わいを楽しむことが可能です。

白ワインは、熟成が進むほど見た目の黄色みが強くなっていきます。

さらに進むと、次第に茶色を感じるはずです

また味わいも、初期のフレッシュな果実のニュアンスから、徐々に優しい印象の味わいへと変化していきます。

ロゼワインでは、熟成とともに明るいピンク色から褐色へと変化をしていくでしょう。

味わいは、チェリーのようなチャーミングな果実感から、シェリー酒のようなコクがあり深い印象を感じるようになります。

2.3.カジュアルワインを熟成させてもよい

通常、カジュアルワインは熟成に向かないとされていて、事実ほとんどのカジュアルワインが購入後短期間で消費されます。

しかし、カジュアルワインも熟成して飲んでよいのです。

もちろん、フレッシュ感やフルーティーさを味わいたいのであれば、早めに飲むべきですが、まろやかさや複雑さを味わいたいと思えば、熟成をさせてから楽しむこともよいでしょう。

高級ワインを長期熟成させたような高いピークを味わうことはできませんが、普段飲んでいるカジュアルワインとは違うおいしさに出会うことができるはずです。

ただしカジュアルワインは、基本的には早めに飲むことを想定して作っているので、長く熟成することには向いていません。

また、すべてのワインが好ましい方向に向かうとも限りません。

いろいろあるワインの楽しみ方の一つとして、少し寝かせてみるという程度に考えていただくのがよいようです。

特に、より身近で安価なデイリーワインでは、熟成によりおいしくなることを期待しないほうがよいでしょう。

3.ワインを熟成させるには冷暗所に寝かせる

冷暗所で保管されたワイン

ワインは劣化しやすい飲み物です。

ですから、熟成させるには適切な環境が必要です。

一言でいうと冷暗所ですが、他にも条件があります。

適切なワインの熟成環境についてご紹介します。

3.1.熟成に理想の6条件

熟成に理想の6条件として以下が挙げられます。

・13度前後で温度変化が少ない

・光が当たらない

・湿度が70%前後

・振動がない

・異臭がない

・ボトルを横に寝かせる

《13度前後で温度変化が少ない》

酸化は温度が高いほど早く進みます。

健全な熟成は緩やかな酸化だと述べましたが、程よく酸化していく温度がおよそ13度前後です。

ですから、13度前後よりも高い温度であれば熟成は早く進み、低ければゆっくりと進みます。

ただし、温度自体よりも重視していただきたいのは温度変化を少なくすることです。

温度が変わることにより、ボトルの中のワインや空気は膨張・収縮をします。

この時、コルクの微小なすき間を通り空気が出入りするのですが、膨張時と収縮時の差が大きいとそれだけ多くの空気の入れ替えが起きます。

すると、多くの酸素がワインに取り込まれることになり、酸化が進み過ぎてしまうのです。

結果として、健全な熟成にはならないということになってしまいます。

《光が当たらない》

光はワインにとっての大敵です。

紫外線は、ワインに限らず様々なものを劣化させます。

ですから、特に日光には当てないように気を付けてください。

もちろん、蛍光灯の光でも劣化は進むとされていますので、極力避けていただきたいです。

ある程度の期間保存するのでしたら、まったく光が当たらない場所に保管するか、新聞紙などで包んで光を遮りましょう。

《湿度が70%前後》

理想的とされている湿度は65%〜80%です。

特に、乾燥している場所では、コルクが乾燥して縮むとされています。

コルクが縮むと、理想的な条件以上に空気が瓶内に入り込んでしまい、ワインを過剰に酸化させてしまいますので、乾燥は避けましょう。

《振動がない》

ワインの安定していた粒子が振動により動かされることで、本来持っていたしなやかさや滑らかさなどのデリケートな味わいが失われます。

その結果、まとまりがなくなり、荒々しく感じるようになってしまいますので、振動のない場所で寝かせるようにしてください。

《異臭がない》

ワインのボトルでは、栓のすき間から空気の出入りがあると述べました。

ということは、臭いがある所に寝かせておくと、栓を通して臭いがワインに移ってしまうということです。

ですから、ワインの近くには、臭いが強いものを置かないようにしましょう。

《ボトルを横に寝かせる》

ボトルを立てておくとコルクが乾燥しやすいとされています。

コルクが乾燥すると縮んでしまい、ワインが必要以上の酸素にさらされ健全に熟成できなくなってしまいます。

湿度と同様、コルクを乾燥させないために、ワインのボトルは横に寝かせて保存しましょう。

以上の6条件を満たすのがワインセラーです。

熟成をさせるのであれば、ワインセラーは絶好の環境です。

といっても、ワインセラーがない場合もあるでしょう。

そのような場合には、冷蔵庫の野菜室や床下収納などが熟成に向いています。

温度・光・湿度・振動・異臭・ボトルの姿勢、これらを意識してワインを熟成させてみてください。

3.2.熟成期間の目安

大まかな分類ですが、ワインのタイプ別の熟成期間の目安をご紹介しておきます。

ご覧いただくと、有機酸類、アルコール、タンニン、糖分が多く含まれるワインほど熟成に耐える力を持っていることがわかるかと思います。

付け加えておきたいのは、同じワインでも生産年(ブドウの収穫年)によって、飲み頃になるまでの期間が変わるということです。

いわゆる当たり年(原料のブドウが完熟した年)のワインは、有機酸類、アルコール、タンニン、糖分を多く含むので熟成期間が長くなります。

さらに、製造過程で木樽を使ったワインも、樽から有機酸類が溶け出すため、樽を使わなかったものに比べて長期熟成が可能です。

ワインのタイプ 熟成期間の目安(年)
デイリー向き白ワイン ~1
カジュアルな白ワイン 1~3
しっかりした白ワイン 5~12
ロゼワイン 1~5
デイリー向き赤ワイン ~3
カジュアルな赤ワイン 3~7
しっかりした赤ワイン 5~15
長期熟成向き赤ワイン 10~

まとめ

ワインの熟成を科学的にご理解いただけたかと思います。

酸化により熟成は進み、味わいのピークを迎えてもなお酸化し続けます。

すべてのワインで酸化は起きますので、最適な条件さえそろっていればどのようなワインであっても熟成が可能です。

もちろん、ご家庭であってもです。

熟成の醍醐味とは“ワインを一番おいしく飲むことができる瞬間”に到達するまでの時間経過を待つことです。

熟成をより身近に感じて、楽しんでいただきたいと思います。

きっと新しいワインの世界が広がることでしょう。

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